4,600年分を、1年で掘る

――隣に森を持つ立場から、採掘跡地の再生を考える。測りに行く前に、何を測るかを宣言しておく


【本記事について】シリーズ9本目です。001〜008は、すべて他人が下した決定の分析でした。明治政府、越後の村人、下北沢の住民、そして自分自身の記事。008の最後に「その実践者として、まず自分自身が試します」と書いた以上、次に必要なのは筆者が当事者として立つ現場です。

ただし、本稿には重大な限定があります。私はまだ、その現場を測っていません。 本稿は調査の報告ではなく、調査の事前登録です。何を測るのか、どうなったら仮説が支持され、どうなったら反証されるのか——測る前に、公開の場に書き残しておきます。

そして、立ち位置も先に書いておきます。 私は採掘業者に何かを求める立場ではありません。隣接する土地の一部に林が残っている、その所有者です。第10章で、世界の成功例と失敗例を突き合わせながら、その立場から何ができて何ができないのかを検討します。


0. なぜ「測る前に」書くのか

008で、私は自分の記事7本を監査した。最も広範に見つかったのは、事実と解釈の境界が明示されていない箇所だった。

そのとき気づいたことがある。境界が曖昧になるのは、たいてい「結論が先にあって、後から根拠を集めた」ときである。

だとすれば、対策は単純だ。結論を出す前に、何を根拠とするかを宣言しておく。

これは私の思いつきではない。医学や心理学では**事前登録(preregistration)**として制度化されている。仮説・測定方法・分析手順を、データを取る前に公開の場に登録する。後から都合のいい分析を選ぶことを、自分に対して禁じるための仕組みである。

本稿は、その作法を土地の再生に持ち込む試みである。

そして正直に書くと、もう一つ理由がある。まだ行っていないのに、行ったように書くことができてしまう。 ボラ土の性質も、採石法の条文も、生態系回復の国際標準も、机の上で調べられる。実際、本稿の第1章から第6章までは、すべて机の上で書いた。

だから第7章で、何が机の上では絶対に分からないかを列挙する。 それが、現地に行く理由になる。


1.【地学】ボラ土とは何か——4,600年前の一度きりの噴火

1-1. 「役に立たない土」という名前

リアル理科社会塾の本拠地は、宮崎県都城市山田町にある。この一帯では、ボラ土と呼ばれる土の採掘が行われている。

まず名前から。国立国会図書館のレファレンス協同データベースによれば、「ボラ」は降下軽石ないし降下軽石層を指す鹿児島地方の方言であり、『新版 地学事典』には淘汰がよく肥料もちが悪いため農耕には適さないと記述されている。一方で、風化したボラは比較的柔らかく保水性があるため「日向ボラ土」と称して園芸用土に利用される、という記述もある(下記出典1)。

「ボラ」には「役に立たない」という意味があると説明されることが多い。農業の障害となるため除去作業の対象だった、という由来である(下記出典2)。

農業にとっての邪魔者が、園芸にとっての商品になった。 この転換が、本稿の経済的な出発点になる。

1-2. 4,600年前の、一度きりの出来事

では、この軽石はいつ、どこから来たのか。

産業技術総合研究所 地質調査総合センターによれば、霧島火山の南東域で高千穂峰の形成後に**御池(みいけ)**というマールが作られ、御池を形成した4.6 ka(約4,600年前)の火山活動は、霧島火山の活動史中最大のプリニー式噴火であった(下記出典3)。

[年代には幅がある] 同じ産総研の別ページでは約4,200年前とされ(下記出典4)、鹿児島県上野原縄文の森の解説も約4,200年前の御池軽石としている(下記出典5)。Wikipedia「御池」は約4,600年前とする(下記出典6)。

本稿では「約4,200〜4,600年前」と幅で扱います。 どちらか一方を選ぶと、選んだ理由を説明できないからです。ただし、文脈上、1つの年代として示す方が分かりやすい箇所については「4,600年前」と表記します。

そして層の厚さ。県内の採取事業者の公表資料によれば、ボラ層は表土1mの下に4〜6mの地層として堆積しており、透水性が極めて高く、粒形が整っているとされる(下記出典7)。別の採取・販売事業者は、pH6程度の均質な土を厳選しているとも記している(下記出典8)。

1-3. ここが、この土地の特異点である

[筆者の整理]ボラ層は「積もり続けている」のではなく、「一度積もって、その後4,600年間更新されていない」ストックである。

これは重要な区別だ。土壌なら年に1mmずつ生成する、という話ができる。だがボラ層は違う。 一度の噴火で一気に堆積し、それきりである。次の供給は、次のプリニー式噴火を待つしかない。

[筆者試算]もし「4,600年で4〜6m」と単純平均すると、年0.87〜1.30 mm相当になる。

(筆者試算。ただしこの数字は誤解を招く。実際には連続堆積ではなく、一度きりの事変である。あえて書いたのは、「年◯mm」という言い方が事象の性質を隠してしまう例として示すためです。)

第6稿で私は「割り引かれる時間Tを決めるのは物理である」と書いた。ボラ土の場合、Tは事実上、無限大に近い。


2.【化学×経済】無菌・無肥料であることが、商品価値になる

ボラ土がなぜ売れるのか。ここは化学と経済の交差点である。

採取・販売事業者の公表資料によれば、ボラ土の特徴は排水・保水・通気性が良く、有害な雑菌や雑草の種子の混入も少ないこと、未使用のものは肥料成分がほとんど含まれておらず無菌状態であること、そして固く、長期間使っても砕けて粒状になることがないことである(下記出典8)。用途は園芸用土のほか、公園・グラウンド・ゴルフ場の土壌改良材にも及ぶ(下記出典7、下記出典8)。

[筆者の整理]商品価値の源泉を分解すると、こうなる。

性質化学・物理的な理由商品価値
無菌・無肥料高温のマグマ由来。生物・有機物を含まない病害リスクが低い。実生・挿し木に最適
種子が混入しない表土下1m以深から採取雑草が生えない
崩れにくい発泡した珪長質ガラスの骨格再利用可能
多孔質発泡時のガス抜けの跡保水と通気を両立

ここに、本稿で最も皮肉な事実がある。

ボラ土の商品価値は、「生物が一度も定着していないこと」に由来している。

無菌であること、種子がないこと、有機物がないこと——すべて「まだ生態系になっていない」ことの言い換えである。

そして採掘とは、その上に4,600年かけて積み上がった生態系を剥がして、下の「生態系になっていない層」を取り出す作業である。

[化学×経済]第2稿で私は、明治政府が社叢を伐って材木として売ったことを「ストックを取り崩してフローに計上した」と書いた。 ボラ土はその純粋形である。元本は絶対に再生産されない。利息だけが計上される。

ただし、ここで採掘を非難したいわけではない。 園芸用土は実需のある商品であり、雇用と地域経済を支えている。第2稿の結論を繰り返すなら、問うべきは「掘るな」ではなく「回復時間Tを誰が負担するか」である。


3.【生物学】参照生態系——「どこまで戻れば戻ったことになるのか」

回復を語るには、ゴールの定義が要る。ここに国際標準がある。

国際生態系回復学会(SER)の『生態系回復の実践に関する国際原則と標準(第2版)』(Gann et al. 2019)は、生態系回復を劣化・損傷・破壊された生態系の回復を支援するプロセスと定義し、適切な参照モデル(reference model)に対して実質的な生態系の回復を達成することを目標とするとしている(下記出典9、下記出典10)。

そして評価の道具が回復ホイール(Recovery Wheel)である。SERの資料によれば、これは6つの主要属性に整理された18のサブ属性に、1〜5の星評価を割り当てるもので、6属性は——

  1. 脅威の不在(過剰利用・汚染・侵略的外来種がない)
  2. 物理条件(土壌・水の物理化学条件、地形)
  3. 種組成(参照生態系に特徴的な在来種の存在)
  4. 構造の多様性(齢構成、栄養段階、植生階層)
  5. 生態系機能
  6. 外部との交換

——である(下記出典9、下記出典11)。

[筆者の分析]この枠組みが、本件に決定的に効く理由が2つある。

第一に、「回復した/していない」の二値ではなく、属性ごとの5段階で測る。 採掘跡地であれば、物理条件は★1から始まるが、脅威の不在は★4から始まるかもしれない(人為的な攪乱が止まるため)。部分的な達成を、部分的に評価できる。

第二に、参照生態系という「比較対象」を明示的に要求する。 これは第7稿で書いた「アンカーを置く」ことそのものである。「自然に戻す」では測れない。「隣のあの森に近づける」なら測れる。

そして、この参照生態系の候補が、幸運にも近くにある。


4.【地理×生物】綾という参照点——50〜100年計画は、すでに日本にある

宮崎県には、日本最大級の原生的な照葉樹林がある。綾町を中心とする綾川流域の照葉樹林である。

林野庁九州森林管理局によれば、照葉樹林は利用・開発などによりその大部分が失われまとまった面積の森林はほとんどないなかで、綾町には中核部分(コアエリア)約700haを含め、約2,500haという日本最大級の照葉樹林が残っている(下記出典12)。

希少性は数字で見るとさらに際立つ。綾ユネスコエコパークの解説によれば、現在の潜在植生から推定すると日本の総面積の約50%が照葉樹林帯と考えられるが、多くは農地や人工林などに置きかえられ、現存する照葉樹自然林は日本の総面積の約1.6%にすぎない(下記出典13)。

[筆者試算]日本の国土面積を約3,780万haとすると、照葉樹自然林は約60万ha。綾の2,500haは、その約0.4%にあたる。

(筆者試算。国土面積は概数)

そして、綾には「回復の計画」がある

ここが本稿で最も励まされた事実である。

林野庁によれば、綾の照葉樹林プロジェクトは、原生的な照葉樹林を厳正に保護するとともに、周辺に存在する二次林や人工林を照葉樹林に復元するため、九州森林管理局・宮崎県・綾町・日本自然保護協会・てるはの森の会の5者が協定書を締結して取り組むものである。国有林約9千haを核に約1万haを舞台とし、ゾーニングのうえ管理されている。そして——

50〜100年後には、保護林と復元された区域により6,000ha以上の連続した広大な照葉樹林の復元を目指します(下記出典14)。

[筆者の分析]これは、シリーズが探してきたものの、ほぼ完成形である。

シリーズの論点綾での実装
誰が決定するか(004)5者協定+連携会議
誰が管理するか(004)ゾーニングごとに管理主体を明示
回復時間T(006)50〜100年と明記
参照生態系(本稿)隣接する原生的照葉樹林
長期を実感可能にする装置(007)ゾーニング図と段階目標

第1稿で本郷高徳の150年林相予想図に驚いたが、同じことが、いま、近隣の町で進行している。

そして重要なのは、綾も「人工林から照葉樹林への復元」を前例のない試みとして始めたことである(下記出典15)。採掘跡地からの復元も、同じ系譜に置ける。


5.【政治・行政】制度は4層ある。そのどこにいるかが、外からは見えない

では、制度は何を要求しているのか。ここで第2稿の議論が正面から戻ってくる。

5-1. まず、どのルールが適用されるのかが分からない

採石法第2条は「岩石」を列挙しているが、そこには花こう岩・安山岩・凝灰岩などが並ぶ(下記出典16)。一方、砂利採取法は砂利(砂及び玉石を含む)を対象とする。降下軽石であるボラ土がどちらに該当するかは、採取の形態・用途・自治体の運用によって変わりうる。

そして、これだけではない。

[重要]森林法の林地開発許可制度が、正面から関わってくる。

林野庁によれば、森林法第10条の2に基づき、保安林以外の森林での一定規模を超える開発行為については都道府県知事の許可が必要であり、対象となる開発行為には土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為が含まれる。規模の要件は、道路や太陽光発電設備を目的とする場合を除き、土地の面積1ヘクタールである(下記出典20)。

「土石の採掘」が明示的に対象に入っている。 ボラ土の採掘地が地域森林計画対象民有林であれば、この制度が適用されうる。

さらに、この制度の目的規定は採石法と決定的に違う。

大阪府の解説によれば、林地開発許可の基準は、ア 災害を防ぐ機能/イ 水害を防ぐ機能/ウ 水質確保の機能/エ 環境保全の機能の4つの保全について措置が講じられていることであり、エについては適切に森林を残して周囲の環境が急変しないよう充分配慮されていることが重要であるため、開発行為の目的に応じて残すべき森林の面積率や配置が決められている(下記出典21)。埼玉県の資料では、**残す森林の割合は20%〜50%**とされている(下記出典22)。

「環境の保全」を要件に含む制度は、すでに存在する。 ただし、それは採石法ではなく森林法の側にあり、しかも1ヘクタールという閾値の上にしか働かない。

5-1-2. そして、この現場は「閾値のちょうど境目」にある可能性が高い

[筆者試算]第1章の面積試算を、この閾値と並べる。

年間採取量(仮定)深さ4m深さ5m深さ6m
3万m³0.75 ha0.60 ha0.50 ha
5万m³1.25 ha1.00 ha0.83 ha
8万m³2.00 ha1.60 ha1.33 ha

(筆者試算。年間採取量はいずれも仮定値であり、出典を持ちません。第7章2番参照)

1haという線を、跨ぐか跨がないかで、適用される制度がまったく変わる。

ただし、単年で回避できるわけではない。大阪府の解説によれば、実施時期又は実施個所の相異にかかわらず一体性を有すると判断される場合——複数年の計画があり各年の行為は1ha以下だが最終的に1haを超える場合など——は、その開発計画全体での森林面積の総計となる(下記出典21)。

※注意:[F5:未検証]この現場が地域森林計画対象民有林にあたるのか、林地開発許可を受けているのか、その許可条件に何が付されているのかは、本稿の時点で確認できていません。

5-1-3. さらに、自治体の条例という層がある

そして国法の下に、もう一層ある。

林地開発の実務解説によれば、1ヘクタール以下の林地開発について、各都道府県や市町村では独自に条例に基づく許可や届出制度を定めているところがあり、そのような林地開発は「小規模林地開発」と呼ばれている(下記出典23)。土砂の採取や埋立てを規制する条例を持つ自治体も多い。

[筆者の整理]つまり、この現場に適用されうるルールは、少なくとも4層ある。

根拠主な目的閾値
採石法/砂利採取法災害の防止事業として採取するなら適用
森林法 林地開発許可災害・水害・水質・環境の保全1ha超
森林法 伐採届造林の担保1ha以下
自治体条例・要綱自治体により様々自治体により様々

※注意:[F5:未検証]この4層のどこに位置づけられているのかを、宮崎県および都城市の担当課に照会して特定する必要があります。

「どの法律か分からない」ではなく、「適用されるルールの全体像が、外から見ると分からない」——これが、本稿の最初の発見である。

そしてこれは、この現場に限った話ではない。 土地の改変に関わるルールは、目的の異なる法令が層をなして重なっている。どの層が働いているかを知らずに「制度は不十分だ」と言うのも、「制度があるから大丈夫だ」と言うのも、どちらも同じ誤りになり得る。

5-2. 採石法の目的は、あくまで「災害の防止」である

どちらの法律であっても、目的規定は明快である。採石法第1条は、岩石の採取に伴う災害を防止し、岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによって公共の福祉の増進に寄与することを目的とする(下記出典16)。

「災害を防止し」である。「生態系を回復し」ではない。 森林法の側に「環境の保全」があるのに対し、採石法の側にはそれがない。 同じ土地に、目的の異なる制度が重なっている。

具体的な規制も、その線で一貫している。第33条の13第2項は、無認可で採取を行った者に対し、都道府県知事が採取跡の崩壊防止施設の設置その他岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置を命じることができると定める(下記出典16)。

経済産業省資源エネルギー庁の『採石技術指導基準書』も、残壁が小段を設けないで不安定な急傾斜の状態で放置されている例があり、これらは採石災害の原因となるばかりでなく植栽等終了時の措置をとることを極めて困難にしていると指摘し、あらかじめ終了時の最終残壁の形状を計画するよう求めている(下記出典17)。

植栽への言及はある。だが、それは「災害防止のための斜面安定」の延長線上にある。

5-3. そして、責任の期間は「2年」である

ここが本稿で最も重い発見だった。

大阪府の『採石の手引き』によれば、採石法第33条の17に基づき、岩石の採取をした採取場について、廃止の日から2年間は、その廃止業者に対し必要な設備をすることを命ずることができるとされている(下記出典18)。

[筆者試算]法の責任期間と、生態系の回復時間を並べる。

回復時間 T法の責任期間2年が占める割合
50年4.0%
100年2.0%
150年(明治神宮の計画)1.3%
450年(彌彦神社の社叢)0.4%

(筆者試算。回復時間は各記事で示したオーダー)

第2稿で私は「明治政府の計算式には項目が足りなかった」と書いた。本稿で書くならこうなる。

制度は存在する。ただし、目的ごとに分かれていて、時間軸の桁が足りていない。

これは制度の欠陥を糾弾する話ではない。 採石法の目的は災害防止であり、その目的に対して2年という設計は不合理ではない。森林法は「環境の保全」を要件に含むが、それは1ha超の開発に対する審査時点の基準であって、数十年後の到達点を担保する仕組みではない。

[筆者の整理]制度の時間軸を並べる。

制度何を担保するか時間軸
採石法 33条の17採取跡の崩壊防止廃止後2年
森林法 林地開発許可残置森林率・防災施設・維持管理許可時点の審査+維持管理の確約
生態系の回復参照生態系への接近数十〜数百年

問題は、これらのどれかを「跡地はこれで大丈夫だ」と読んでしまうことである。

制度が担保しているのは「崩れないこと」と「一定割合の森を残すこと」であって、「掘った場所が戻ること」ではない。 ここを混同すると、誰も回復の責任を負っていない状態が、制度上は適法なまま続く。


6.【経済】では、回復時間Tを誰が負担するのか

第2稿で提示した「案A〜案D」の枠組みを、この現場に当てる。

[筆者の整理]採掘跡地の選択肢

短期の費用長期の便益不可逆性法の要求管理主体
案A:法定の災害防止のみ最小ほぼゼロ固定される◎ 満たす不要(2年で終了)
案B:緑化(外来牧草等での早期被覆)限定的一部固定◎ 満たす数年
案C:参照生態系を設定した段階的復元中〜大解消しうる◎ 満たす数十年必要
案D:別用途への転換(太陽光・資材置場等)用途による固定される◎ 満たす用途主体

現行制度の下では、A〜Dのどれを選んでも適法である。 つまり選択の分岐点は、法の外にある。

[筆者の見立て]そして案Cの障壁は、費用ではなく管理主体である。

第4稿の下北沢で見たとおり、「誰が管理するか」を設計できなければ、緑地は成立しない。 採掘跡地には、下北沢のような沿線人口も、越後の社叢のような氏子集団もない。

だが、前例は2つある。

ひとつは綾である。 国有林・県有林・町有林という所有が分かれた土地を、5者協定で束ねた(下記出典14)。

もうひとつは、制度の中にある。 茨城県の林地開発許可申請の手引きは、許可基準にある「善良に維持管理すること」の解釈として、残置し又は造成する森林・緑地につき申請者が権原を有していることを原則とし、関係市町村等との間で森林又は緑地の維持管理について協定を締結していること等をいうと説明している(下記出典24)。

[筆者の分析]つまり、「所有と管理を協定で分離する」という発想は、林地開発許可制度の運用の中にすでに埋め込まれている。

さらに、太陽光発電施設については運用がもう一歩進んでいる。同手引きによれば、事業終了後の土地利用の計画が立てられ、終了後に開発区域について原状回復等の事後措置を行うこととしている場合、申請者は植栽等、設備撤去後に必要な措置を講ずることとともに、土地所有者との間で締結する土地使用に関する契約に、事業終了後に原状回復等する旨を盛り込むこととされている(下記出典24)。

「事業が終わった後、誰が何をするか」を契約に書かせる制度は、すでに動いている。 ただし対象は太陽光であって、土石の採掘ではない。

※注意:[F5:仮説]採掘跡地の生態系回復は、「掘る主体」「土地を持つ主体」「管理する主体」を分離し、協定で束ねることで成立しうる。既存の林地開発許可制度の運用は、その設計をすでに部分的に想定している。

これが、本稿で立てる最大の仮説である。 そして、これは机の上では検証できない。


7.【事前登録】測りに行く前に、測ることを宣言する

ここからが本稿の本体である。

[宣言]以下は、2026年8月時点で私がまだ確認していない事項と、それをどう確認するかの計画です。

7-1. まず確認すべき事実(F1を取りに行く)

#確認すること方法なぜ必要か
1適用法令(採石法か砂利採取法か、その他か)宮崎県・都城市の担当課に照会責任の所在が決まる
2年間採取量の実数採石法施行規則第11条に基づく業務状況報告書は経済産業局に提出されている(下記出典19)。開示請求または事業者への照会本稿の「年5万m³」は筆者が仮に置いた数値であり、根拠がない
3採掘深度と層厚の実測現地の露頭断面を計測面積換算の前提
4表土の扱い(保存されているか、廃棄されているか)現地確認および事業者への聴取ここが回復可否の最大の分岐点
5跡地の現況(何年前に採り終わり、いま何が生えているか)現地踏査。可能なら過去の空中写真と照合自然の回復速度の実測値になる
6隣接する残存林の性質(原生林か、二次林か、人工林か)植生調査参照生態系として使えるかが決まる
7保有する林の現況(面積、樹種構成、林齢、跡地からの距離)所有地の植生調査とGIS計測提供できる資源の量が決まる(第10章)

[最重要は4番] 鉱山跡地の植生回復では、剥ぎ取った表土を保存して埋め戻しに使えるかどうかが決定的に効く。表土には種子・菌根菌・土壌動物が含まれており、それが失われているか保存されているかで、回復時間Tが桁で変わる。

そして2番について、正直に書いておく。 本稿の冒頭で「年5万m³」というオーダーを念頭に置いて試算したが、この数字の出典を私は持っていない。 本文の面積試算はすべて「仮に◯m³なら」という条件付きである。実数は行政が持っている可能性があり、確認する必要がある。

7-2. 「条件分岐」と「仮説」を、混ぜない

ここで、事前登録の書き方そのものについて、一つ整理しておく。

[筆者の整理]以下の3つに分けて書く。

区分性質確認の仕方
① 事実確認項目世界がどうなっているか現地・行政・事業者に確認する。仮説ではない
② 条件分岐事実に応じて、どのルートに進むか事実確認の結果で決まる。成否ではない
③ 反証可能な仮説予測。外れうる外れたら外れたと書く

7-2-1. 事実確認項目(=①。7-1の7項目がこれにあたる)

7-1に挙げた7項目は、すべて事実確認であって仮説ではない。 「適用法令は何か」「表土は保存されているか」は、調べれば決まる話。ここを『仮説』と呼ばないことが、事前登録の最初の作法だと考える。

7-2-2. 条件分岐(=②)

[分岐A:参照生態系をどこに置くか]

  • 隣接する残存林が原生的な照葉樹林であれば → 隣接林を参照生態系とする
  • スギ人工林または強く改変された二次林であれば → 参照生態系を綾など他地域に求める。あるいは「照葉樹林への復元」という目標自体を、地域の潜在自然植生から立て直す

[分岐B:表土の状態でルートが変わる]

  • 表土が保存され、種子バンクが生きていれば → 埋め戻しによる自律的回復ルート(低コスト・T短縮)
  • 表土が廃棄されている、または種子バンクが死滅していれば → 播種・植栽が必須の高コストルート。費用構造がまったく変わる

どちらの分岐に進んでも、それは「失敗」ではない。 ルートが変わるだけである。そしてどちらに進んだかを、正直に書いていく。

7-2-3. 反証可能な仮説(=③)

[仮説1]表土を保存・埋め戻した区画では、そうでない区画に比べ、造成3年後の在来木本の実生密度が明確に高い。

  • 反証条件: 表土を戻したにもかかわらず、実生密度に差が出ない、または逆転した場合。
  • (分岐Bで「保存されていない」となった場合、この仮説は検証不能となります。棄却ではありません。)

[仮説2]採掘跡地のSER回復ホイールにおいて、「外部との交換」は初期から★2〜3を示す。

  • 理由: 隣接林が種子供給源として機能するため。
  • 反証条件: 初期評価が★1にとどまる場合。その場合、隣接林との距離・風向・鳥散布の条件を再検討する必要がある。

[仮説3]所有と管理を分離した協定方式が、この現場で成立する。

  • 反証条件: 事業者・地権者に打診したうえで、いずれかが第三者の関与を望まない場合。この場合は反証となり構想は成立しない。

7-3. 測る指標(SER回復ホイールを使う)

参照生態系との比較は、SERの6属性18サブ属性に沿って評価する(下記出典9)。独自の指標を作らないのは、他地域との比較可能性を確保するためである。

初期評価では、おそらく——

  • 物理条件:★1(表土なし、有機物なし)
  • 種組成:★1
  • 構造の多様性:★1
  • 脅威の不在:★3〜4(採掘終了後は攪乱が止まる)
  • 生態系機能:★1
  • 外部との交換:★2〜3(隣接林が種子供給源になりうる)

——というあたりから始まるはずである。この予測が外れたら、外れたと書く。(「外部との交換」の欄が、7-2-3の仮説2に対応します。)

7-4. この記事の位置づけ

本稿は「これから始めます」という宣言であって、成果の報告ではありません。

なぜわざわざ先に書くのか。理由は3つある。

  1. 後から結論に都合よく根拠を選べなくするため(記事008の教訓)
  2. 同じことを考えている人に見つけてもらうため
  3. 失敗したときに、失敗したと書ける状態を先に作っておくため

3番が一番大事だと思っています。 何も宣言していなければ、うまくいかなかったときに、黙って別のことを書けばいい。先に書いておけば、それができない。


8.【授業設計】理科×社会の教材化メモ

[地学]自分の足元の地層を読む

  • 地域の露頭(切土のり面、造成地、採掘跡)を観察し、層の境界をスケッチさせる
  • 層ごとに「何年前のものか」を調べさせる
  • 問い:「この層は、いま新しく作られているか?」
  • 狙い:ストックとフローの区別。再生産されない資源があることの実感

[化学]無菌であることの意味を考える

  • ボラ土と腐葉土を比較し、有機物・微生物の有無を観察させる(顕微鏡・発酵実験)
  • 問い:「無菌であることは、良いことか悪いことか」
  • 狙い:性質の善悪は用途が決めるという視点。第4稿の『宝物』概念と接続

[生物]参照生態系を自分で決めさせる

  • 校庭や近所の空き地を「回復対象」とし、参照生態系を近隣から選ばせる
  • SERの6属性で、現状を★1〜5で評価させる
  • 問い:「どこまで戻ったら、戻ったことになるのか」
  • 狙い:ゴールを定義しなければ達成度は測れないという原則

[政治・行政]法の目的を読む

  • 採石法第1条を読ませ、「何を防ぐ法律か」を一文で書かせる
  • そのうえで「跡地に森が戻ることは、この法律の目的か」を議論させる
  • 狙い:制度は目的の範囲でしか働かないという理解

[経済]2年と100年を並べる

  • 法の責任期間2年と、森の回復時間100年を同じ数直線に置かせる
  • 第7稿の対数の話と接続し、桁の差を体感させる
  • 狙い:制度の時間と自然の時間のズレの可視化

[社会×経済]オフセットは成立するか

  • 「ここを壊す代わりに、あそこの森を守ります」という取引を提示し、成立するか議論させる
  • そのうえで全球レビューの数字(森林でNNL達成を示した研究は4件中0件、回避損失型は証拠なし)を示す(下記出典38)
  • 問い:「なぜ、直感的には公平に見える取引が機能しないのか」
  • 狙い:時間差と追加性という概念の獲得。第6稿の不可逆性と直結する

[発展・探究]事前登録を書かせる

  • 生徒自身の探究テーマについて、調べる前に「何を調べるか」「どうなったら仮説を捨てるか」を書かせる
  • 調査後、宣言と結果を照合させる
  • 狙い:都合のいい結論に寄せない訓練。本稿と同じ作法

9. 結論:掘るなとは言わない。誰が、何を持ち寄って戻すのかを決めたい

本稿の主張を4行にまとめる。

第一に、ボラ土は再生産されない資源である。 約4,200〜4,600年前の一度きりのプリニー式噴火で堆積し、それきりである。次の供給は次の大噴火を待つしかない。第6稿の言葉でいえば、回復時間Tは事実上無限大である。

第二に、その商品価値は「生態系になっていないこと」に由来する。 無菌・無肥料・種子なし——すべて生物が定着していないことの言い換えである。採掘とは、上に載った生態系を剥がして、下の未生物層を取り出す作業である。

第三に、制度は存在するが、目的ごとに分かれ、閾値の下に穴がある。 採石法の目的は災害防止で、廃止業者への責任期間は2年。森林法の林地開発許可には「環境の保全」が要件に入り残置森林率も定められているが、それは1ha超の開発に働く審査基準である。この現場の年間採掘面積は、まさにその閾値の境目にある可能性が高い。

第四に、だからこそ、法の外で誰が管理するかを設計しなければならない。 そして隣の綾町には、5者協定で所有の壁を越え、50〜100年後に6,000haの照葉樹林復元を目指すという先例がある。

第五に、隣接林の所有者にできることは、限られていて、しかしはっきりしている。 世界の証拠では、回復の決定的な資源は表土であり、播種の寄与は小さい。隣接林の価値は種子を渡すことではなく、種子の「影」を落としていることにある。 そして——すでにある森を「守るから掘ってよい」と売る回避損失型オフセットは、世界の証拠で最も裏づけが薄い。それはやるべきでない。


シリーズ8本を通じて、私は「誰が決定し、誰が管理するか」を問い続けてきた。

明治政府は決定したが、管理主体を設計しなかった(002)。越後の村人は決定を断り、氏子として管理し続けた(003)。下北沢では、反対する側が管理する側になった(004)。

そして本稿で、私は初めて「自分が何をするか」を書いています。

正直に言えば、まだ何も始まっていません。現地の露頭も見ていないし、事業者にも会っていないし、県にも照会していない。 本稿はその手前で書いた、計画書です。

それでも先に公開するのは、008で学んだからです。

確認されていない数字を、確認済みの事実として使ってはいけない。

同じことが、これからやることにも当てはまる。やっていないことを、やったように書いてはいけない。

だから、こう書きます。私はこれから、この6項目を確認しに行きます。 結果は、宣言と照らし合わせて報告します。外れたら外れたと書きます。


10. 隣に森を持っている、という立場から

ここまで、私は自分の立ち位置を書いてきませんでした。最後に、それを書きます。

10-1. 私は監視する隣人ではなく、生態系に関する資源を持っている隣人である

私は、採掘業者に何かを求める立場にありません。 採掘は実需のある事業であり、地域の雇用を支えています。「こうしてほしい」と外から言う権利も、その根拠も、私は持っていません。

私が持っているのは、隣接する土地の一部に残っている林です。

[この立場の意味] 生態系回復の文脈で、隣接する残存林の所有者は、単なる観察者ではありません。回復に必要な資源を、物理的に持っている当事者と言えます。

だとすれば、問いはこうなります。

私の森は、跡地の回復に対して何を提供できて、何を提供できないのか。

これを世界の事例で確かめました。成功例も、失敗例も。


10-2. 最も成功した事例と、同じ事例の失敗側

[世界で最も長く検証されている採掘跡地の回復] 西オーストラリアのジャラ林(Eucalyptus marginata)におけるボーキサイト採掘後の回復です。

成功の側。 事業者の公表資料および学術文献によれば、1963年の採掘開始以来、約13,500haが撹乱され、約11,100haが森林に回復された。1988年以降は在来種のみを使用し、復元地に周辺の参照林と同数の植物種を戻すことを目標とし、造成15か月後に測定するという完了基準を設定。2001年に、参照林比100%の種数回復を初めて達成した(下記出典25、下記出典26)。旧ジャラデール鉱山では合計1,355haを州に返還し、受理証明書を取得している(下記出典25)。

[そして、決定的な知見がここにある]

Restoration Ecology 誌の研究によれば、下層植生の種の豊かさの約70%は、新鮮な表土の直接移送によって戻る(下記出典27)。さらに2024年の評価研究は、精密剥ぎ取りされた新鮮な表土が初期の植物種数の最大4分の3をもたらす決定的な資源であるとする(下記出典28)。

[同じ研究が示す、期待を裏切る事実]

同じ2024年の研究は、こうも述べている。播種した種子の種数は、復元地の種数に影響しない。 種子混合物と18か月後の植生の類似度(Bray-Curtis)は**5.6%±2.8%**にすぎない(下記出典28)。さらに、復元の地形設計が内部排水型であるため、参照生態系にはめったに存在しない季節的な宙水を作り出しており、これは水文の重大な変化であるとも指摘している(下記出典28)。

[そして2026年、この事例には罰則が科された] 報道によれば、Alcoaは約2,000haの違法伐採に対し5,500万豪ドルの罰金を科され、うち約4,000万ドルが「永続的な生態オフセット」に充てられることとなった(下記出典29)。

[筆者の整理]この一件から引き出せる教訓は、期待していたものと違いました。

期待していたこと実際に効いていたもの
隣接林から種子を集めて播けば戻る播種の寄与は小さい(類似度5.6%)
種数が戻れば回復である種数100%でも水文は戻っていない
長く続ければ制度は成熟する60年続けた事業者でも違法伐採で罰金

教訓①:決定的な資源は表土であって、種子ではない。

そして、これは私にとって厳しい結論です。 表土は採掘地の側にあります。私の森の表土を剥いで提供したら、本末転倒です。


10-3. では、隣に森があることの価値は何か——「種子の影」

答えは、種子そのものではなく、森があること自体にありました。

[applied nucleation(応用核形成)] SERの定義によれば、これは散布者を引き寄せ新たな定着を促す小さな植生パッチを植え、時間とともに森林域を拡大させる手法である(下記出典30)。

コスタリカ南部で15サイト・15年にわたって実施された比較実験(Holl et al. 2020)によれば、応用核形成と植林は、大半の動植物群・植生構造・生態系機能の回復促進において同程度に有効であり、しかも応用核形成は混合樹種の植林より安価である(下記出典31)。別のレビューは、応用核形成のコストは伝統的な植林手法の25〜33%になりうるとする(下記出典32)。

Zahawi らの実験(2013)は、より具体的です。動物散布樹種の定着は、能動的復元で受動的復元の2倍以上(0.45 vs 対照)であり、島状植栽は元々の面積の20%しか植えていないにもかかわらず、植林区と同等の定着量を示した(下記出典33)。

種子雨の観測も示唆的です。Reid らによれば、**大型の動物散布種子の量は、対照区0.2に対し、島状植栽4.6、植林区5.8(seeds/m²/年)**であった(下記出典34)。

[そして、失敗側も記録されている]

ニュージャージー州の埋立地で1991年に始まった長期実験では、6haの敷地の3%未満にあたる16区画(10×10m)に植栽し、19年後に敷地全体の森林被覆が0から59%へ増加した。 だが同時に、後期遷移段階を示す種はほとんど見られなかった(下記出典35)。

さらに、温帯林の研究では、大きすぎる樹木島は果実食動物を島内に閉じ込め、島間の移動を妨げてマトリクスへの定着を阻害しうるとも報告されている(下記出典36)。

教訓②:隣接林の価値は、種子を「渡すこと」ではなく、種子の「影」を落としていることにある。

私が提供できるのは、森そのものと、そこからの距離です。


10-4. コラボレーションの方向性——4案と、世界の証拠

[筆者の整理]仮に採掘事業者と協働できるとしたら、選択肢は4つです。

内容世界の証拠判定
A. 参照生態系の提供私の森を、回復目標の基準点として測定に開放するAlcoaは「参照林と同数の種数」を完了基準に据えている(下記出典25)◎ 最も価値が高い
B. 種子・苗の供給地域性系統の種子を採取し、育苗するAlcoaは自前の苗畑・種子バンクを数十年運営(下記出典28)。ただし播種の寄与は限定的○ 補助的
C. 核の設置跡地に小さな樹木島を置き、隣接林からの散布を待つコスタリカ15年、コストは植林の25〜33%(下記出典31、下記出典32)○ 条件付き
D. オフセットの売り手になる「私の森を守るから、掘ってよい」という取引後述。証拠が極めて悪い× やらない

10-5. Dをやらない理由——生物多様性オフセットの失敗の証拠

これが、今回の調査で最も重い発見でした。

[証拠1:損失そのものが測られていない] 出版済み研究のレビューによれば、一次アウトカムデータを持つ評価は40件しか見つからず、そのうち、オフセットによる生物多様性の利得が開発に伴う損失を実際に補償したという証拠は得られなかった。理由は、損失が一度も推定されていなかったからである(下記出典37)。

[証拠2:森林ではNNL達成の証拠がない] Conservation Letters 誌の全球レビューは、15,715本の論文から生態学的アウトカムを観測した32報告(30万ha超のオフセット)を特定した。NNL(ノー・ネット・ロス)を達成したと報告したのは約3分の1で、その大半は湿地。 そして——世界のオフセットの3分の2が森林生態系に適用されているにもかかわらず、森林の生息地・種についてNNL達成を示した研究は、4件中0件だった(下記出典38)。

[証拠3:回避損失型には証拠がまったくない] 同レビューは、回避損失型オフセット(他所の既存生息地を保護することで影響を相殺する方式)については、NNL達成の証拠が得られなかったとも明記している(下記出典38)。

[証拠4:必要な倍率が現実離れしている] Moilanen らの検討によれば、復元型オフセットでNNLを達成できない確率を最小化するように倍率を適切に計算すると、1:100を超える非常に高い倍率が必要になりうる(下記出典39)。実際のニューサウスウェールズ州の5年間の運用では、オフセット対開発の面積比は平均4.9:1能動的復元はオフセット総面積の20%未満であり、永久的な損失と20年かけて積み上がる利得の時間差により、開発が続くかぎり利得が追いつく見込みは薄いと結論づけられている(下記出典40)。

[筆者の判断]私の森は、まさに「回避損失型」の典型です。

すでにそこにある森を「守ります」と言って対価を得る——これは世界の証拠で最も裏づけの薄い型であり、しかも私の場合、追加性(additionality)がありません。 取引がなくても、私はその森を守るからです。

私は、自分の森をオフセットとして売りません。

これは倫理的な高潔さの表明ではなく、証拠に基づく実務判断です。 機能しないと分かっている商品を売れば、いずれ自分の信用が毀損されます。


10-6. では、何をするのか——3つの役割

[方針]私の森を、「守る対象」ではなく「使ってもらう資源」として位置づけます。

① 測定の基準点になる(参照生態系の開放)

SERの回復ホイールは、参照生態系との比較を要求します(下記出典9)。跡地の回復度を測ろうとする誰にとっても、比較対象が必要です。 私の森を、その基準点として測定に開放します。対価は求めません。 求めるのは、測定結果を公開することだけです。

② 供給者になる(種子・苗・地域性データ)

Alcoaが数十年かけて自前の苗畑と種子バンクを整備したように(下記出典28)、地域性系統の種子と苗は、外部から買えません。 ここは隣接林所有者にしか担えない役割です。ただし、播種単独の寄与は限定的であるという証拠(下記出典28)は、最初から相手に伝えます。

③ 記録者になる(第三者モニタリングの公開)

オフセットの失敗の中心的な原因は、事後評価のデータが収集も報告もされないことでした(下記出典37、下記出典41)。測る人がいないから、機能しているかどうかが誰にも分からない。

私は測る側に回ります。 第8稿で確立したF1〜F5の書き分けと、本稿の事前登録の作法を、そのままモニタリングの記録に適用します。

[そして、コラボの入口はこうなります]

「御社の跡地を測らせてください」ではなく、「うちの森を、基準点として使ってもらえませんか」。

前者は監査で、後者は提供です。 同じ測定をしていても、立ち位置がまったく違います。


10-7. これは事業になるのか——正直に書いておく

短期的には、なりません。

制度側の受け皿は整いつつあります。2025年4月施行の地域生物多様性増進法に基づく自然共生サイトの対象例には「社寺林」など民有の緑地が挙げられ、支援者への支援証明書がTNFD等への対応に活用できるよう設計されている(第2稿参照)。自然を保有していること自体が、企業にとって接続可能な資産になりつつある。

ただし、認定が収益を保証するわけではありません。 第2稿で書いたとおり、制度は「量」と「質」を測りますが、「誰が管理するか」は主要な評価軸ではない。

[筆者の見立て]だとすれば、当面の価値は「測れる森を持っていること」そのものにあります。

参照生態系として測定され、データが公開され、他地域の実践と比較可能になった森は、単に守られている森より、意思決定に使える。 第7稿で書いたとおり、実感できない数は意思決定に入らない。入らない数は、存在しないのと同じです。

測られていない森も、同じです。


10-8. そして、一人でやる話ではない

私が個人で完遂できるとは思っていません。

第4稿のシモキタ園藝部は約250名が2週間ごとに集まって成立していました。第3稿の越後の社叢は4,672の氏子集団が支えていました。規模も型も違いますが、共通しているのは「一人ではない」ことです。

そして日本各地には、まったく違う形で同じ問いに向き合っている実践があります。都市の線路跡地で緑を管理する人たち。中山間地で食料自給に近い循環を組み立てている人たち。人工林を照葉樹林に戻す50〜100年計画を回している人たち。

それぞれが違う条件で、違う答えを出している。 私が興味があるのは、その違いを比較可能にすることです。

第4稿で「塊・点・線」という類型を提案し、第5稿で周長密度という指標を作りました。同じことを、都市以外の実践にも広げたい。 決定主体/管理主体/物質循環の閉じ方/収入構造/担い手の再生産——この5軸で、全国の実践を横並びにできる表を作ります。

そのために、まず現地に行きます。 記録して、共通の言葉にして、公開する。その中に自分が入っていくのではなく、それぞれの現場で背中を見せている人たちを、緩くつなげる言葉をつくる。

一人ひとりが自分の夢を追いながら、全体として社会課題が動く——そういう形があるとしたら、必要なのは中心ではなく、共通言語だと思います。

次回以降、そのデータベースの設計と、最初の訪問記録を書きます。


出典一覧

A. 本文で根拠として使用した資料

[ボラ土・地質]

  1. 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「『ボラ土』について解説した本を探している」(『新版 地学事典』平凡社、『最新 農業技術事典』農文協ほかの記述を紹介) https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000261721&page=ref_view
  2. おしえて!田舎センセイ!「日向土(ボラ土)の特徴と使い方」(「ボラ=役に立たない」という由来の説明) https://inakasensei.com/hyuuga-soil
  3. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター「霧島火山の活動記録/3万年〜」(御池を形成した4.6 kaの活動が霧島火山史中最大のプリニー式噴火) https://www.gsj.jp/hazards/volcano/kirishima2011/works-history3ka.html
  4. 産業技術総合研究所「霧島:霧島火山の活動史」(御池は約4,200年前のプリニー式噴火によるマール) https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/kirishima/text/exp11-2.html
  5. 鹿児島県上野原縄文の森「考古ガイダンス第5回」(約4,200年前の御池軽石) https://www.jomon-no-mori.jp/guidance5/
  6. Wikipedia「御池」(約4,600年前のマグマ水蒸気爆発、御池軽石/御池ボラ) https://ja.wikipedia.org/wiki/御池
  7. ヒロ建設「ボラ土とは」(表土1mの下に4〜6mの層として堆積、透水性・保水性、用途) https://hiro-kensetsu.com/cate_news/586/
  8. 県内のボラ土採取・販売事業者の公表資料(pH6程度、無菌・無肥料、崩れにくさ、用途。本文では社名を伏せていますが、公開情報です) https://www.nanken-kogyo.com/service

[生態系回復の国際標準]

  1. Gann, G.D. et al. (2019) “International principles and standards for the practice of ecological restoration. Second edition” Restoration Ecology 27(S1): S1-S46 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/rec.13035 /本文PDF https://www.statsforvalteren.no/contentassets/56e416e7c9154721a245a995bc8ed137/ser-international-principles-and-standards-2019.pdf
  2. Ecologic Institute “Guidance and tools for effective restoration measures”(SERの定義と、参照モデルに対する回復という考え方の整理) https://www.ecologic.eu/sites/default/files/publication/2021/B1_Restoriation-measures.pdf
  3. Society for Ecological Restoration “SER Updates and CERP Program Overview”(回復ホイールの6主要属性・18サブ属性・5つ星評価) https://conference.ifas.ufl.edu/ncer/prior/ncer2018/presentations/Salon%20D/Tuesday/1700%20SER%20CERP%20overview%20NCER.pdf

[綾の照葉樹林]

  1. 林野庁 九州森林管理局「綾の照葉樹林」(コアエリア約700haを含め約2,500ha) https://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/aya/syouyoujyurin.html
  2. 綾ユネスコエコパーク(現存する照葉樹自然林は日本の総面積の約1.6%、綾は約2,500ha) https://ayabrcenter.jp/unescoecopark/ayaunescoecopark/
  3. 林野庁 九州森林管理局「綾の照葉樹林プロジェクトとは」(5者協定、約1万haのゾーニング、50〜100年後に6,000ha以上の連続した照葉樹林の復元を目指す) https://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/aya/purojyekuto.html
  4. 国土交通省 資料(綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画の経緯、前例のない人工林から照葉樹林への復元) https://www.mlit.go.jp/common/001275948.pdf

[採石・砂利採取の制度]

  1. 採石法(昭和25年法律第291号)第1条・第2条・第33条の13ほか https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000291 /条文参照 https://hourei.net/law/325AC0000000291
  2. 経済産業省 資源エネルギー庁『採石技術指導基準書(平成15年版)』(最終残壁の整形、植栽等終了時の措置) https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/mineral_resource/situation/004/pdf/saisekigijutusidoukijun2003.pdf
  3. 大阪府『採石の手引き』(採石法第33条の17:廃止の日から2年間の災害防止命令) https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/2692/saiseki_tebiki_ver9_01.pdf
  4. 中部経済産業局「採石法に係る手続き」(採石法施行規則第11条に基づく業務状況報告書の提出義務) https://www.chubu.meti.go.jp/d61kogyo/saiseki/index.html
  5. 林野庁「林地開発許可制度」(森林法第10条の2、対象は土石又は樹根の採掘等で1ha超) https://www.rinya.maff.go.jp/j/tisan/tisan/con_4.html
  6. 大阪府「林地開発許可制度の概要」(許可基準の4機能、残置森林の面積率と配置、一体性を有する場合の面積合算) https://www.pref.osaka.lg.jp/o120040/midori/midori/rinpatsu.html
  7. 埼玉県「林地開発許可制度」(残す森林の割合20%〜50%) https://www.pref.saitama.lg.jp/a0905/kaihatu.html
  8. 株式会社環境と開発「林地開発許可の手続きの流れ 森林法以外の条例にも注意!」(1ha以下の開発について自治体が独自に条例で許可・届出制度を定める「小規模林地開発」の存在) https://www.etod.co.jp/article/blog/130
  9. 茨城県『林地開発許可申請の手引き』(「善良に維持管理すること」の解釈としての維持管理協定、太陽光発電事業終了後の原状回復に関する運用細則) https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/rinsei/keikaku/keikaku/contents/rinchi-kaihatsu/documents/tebiki.pdf

[採掘跡地の回復:成功と失敗]

  1. Alcoa of Australia「Alcoa continues successful rehabilitation of jarrah forest ecosystem」(1988年以降は在来種のみ、参照林比100%種数回復を2001年に達成、ジャラデール1,355haの州への返還) https://www.alcoa.com/australia/en/news/releases?id=2023/11/alcoa-continues-successful-rehabilitation-of-jarrah-forest-ecosystem&year=y2023
  2. Australian Parliament 提出資料「Bauxite Mining and Conservation of the Jarrah Forest in South-West Australia」(1963年以降13,500ha撹乱・11,100ha回復、種数が1991年の65%から2001年の100%へ) https://www.aph.gov.au/DocumentStore.ashx?id=7556809e-1029-4162-8aaf-eb5bb90a562f&subId=510096
  3. Koch, J.M. (2007) “Restoring a Jarrah Forest Understorey Vegetation after Bauxite Mining in Western Australia” Restoration Ecology(下層植生の種の豊かさの約70%が新鮮な表土の直接移送で戻る) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1526-100X.2007.00290.x
  4. Campbell, et al. (2024) “Standards-based evaluation informs ecological restoration outcomes for a major mining activity in a global biodiversity hotspot” Restoration Ecology(精密剥ぎ取り表土が初期種数の最大3/4を供給。播種した種子の種数は復元地の種数に影響せず、18か月後の類似度5.6%。復元地形が参照生態系にない季節的宙水を作る水文変化) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/rec.14236
  5. Particle(西オーストラリア科学広報)「Can jarrah forests be recovered after bauxite mining?」(約2,000haの違法伐採に対する5,500万豪ドルの罰金と生態オフセットへの充当) https://particle.scitech.org.au/earth-water/can-jarrah-forests-be-recovered-after-bauxite-mining/

[applied nucleation(応用核形成)]

  1. Society for Ecological Restoration の定義(Gann et al. 2019)を引く形での applied nucleation の説明。ScienceDirect「Performance and cost of applied nucleation versus high-diversity plantations for tropical forest restoration」 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378112721001778
  2. Holl, K.D. et al. (2020) “Applied nucleation facilitates tropical forest recovery: Lessons learned from a 15-year study” Journal of Applied Ecology 57(12):2316-2328(15サイト15年。応用核形成と植林は同程度に有効で、応用核形成のほうが安価) https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/1365-2664.13684
  3. Corbin, J.D. & Holl, K.D. “Applied nucleation as a forest restoration strategy”(コストは伝統的植林手法の25〜33%になりうる) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S037811271100627X
  4. Zahawi, R.A. et al. (2013) “Testing applied nucleation as a strategy to facilitate tropical forest recovery” Journal of Applied Ecology(動物散布種の定着は能動的復元で2倍以上。島は面積の20%のみの植栽で植林区と同等) https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1365-2664.12014
  5. Reid, J.L. et al. (2015) “Seed dispersal limitations shift over time in tropical forest restoration”(大型動物散布種子は対照0.2に対し島4.6・植林5.8 seeds/m²/年) https://www.holl-lab.com/uploads/2/6/0/0/26004460/reidetal2015.pdf
  6. Handel, S.N. ほか「A long-term evaluation of applied nucleation as a strategy to facilitate forest restoration」Ecological Applications 26(1)(ニュージャージー州の埋立地。6haの3%未満の植栽で19年後に森林被覆59%。ただし後期遷移種はほとんど見られず) https://www.researchgate.net/publication/277975601_A_long-term_evaluation_of_applied_nucleation_as_a_strategy_to_facilitate_forest_restoration
  7. “Forest recovery through applied nucleation: Effects of tree islet size and disperser mobility on tree recruitment in a temperate landscape” Forest Ecology and Management(大きすぎる樹木島は果実食動物を閉じ込め、島間移動を妨げうる) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378112723007429

[生物多様性オフセットの失敗の証拠]

  1. Josefsson, J. et al. “Compensating for lost nature values through biodiversity offsetting – Where is the evidence?” Biological Conservation(一次アウトカムデータを持つ評価は40件のみ。損失が推定されていないため、利得が損失を補償した証拠は得られなかった) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006320721001695
  2. zu Ermgassen, S.O.S.E. et al. (2019) “The ecological outcomes of biodiversity offsets under ‘no net loss’ policies: A global review” Conservation Letters 12:e12664(32報告・30万ha超。NNL達成報告は約1/3で大半が湿地。森林生息地・種でNNL達成を示した研究は4件中0件。回避損失型のNNL達成証拠なし) https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/conl.12664
  3. Gardner, T.A., von Hase, A. et al. (2013) “Biodiversity Offsets and the Challenge of Achieving No Net Loss” Conservation Biology(Moilanen et al. 2009 の引用として、復元型オフセットでは1:100を超える倍率が必要になりうる) https://www.forest-trends.org/wp-content/uploads/imported/2013-gardner-von-hase-et-al-conservation-biology-nnl-pdf.pdf
  4. “Five years of offsetting native vegetation: The challenge of achieving no-net-loss” Ecological Indicators(オフセット対開発の面積比 平均4.9:1、能動的復元はオフセット総面積の20%未満、時間差により利得が追いつかない) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1470160X25011124
  5. “Credible biodiversity offsetting needs public national registers to confirm no net loss” One Earth(事後評価データがほとんど収集・報告されないこと、規制順守とNNL達成の区別) https://www.cell.com/one-earth/fulltext/S2590-3322(22)00266-4

B. 本シリーズ既刊(各記事の詳細な出典は当該記事末尾を参照)

  1. リアル理科社会001「サステナビリティは南方熊楠に学ぼう」
  2. リアル理科社会002「明治政府は計算していた。ただし、項目が足りなかった」
  3. リアル理科社会003「100年前に知事の判断で神社合祀を免れた新潟の今」
  4. リアル理科社会004「下北沢:明治神宮でも、鎮守の森でもない、緑地の”第三の型”」
  5. リアル理科社会005「理系と文系の掛け算を36マスで表現してみた」
  6. リアル理科社会006「割引率を選ぶのは倫理、割り引かれる時間を決めるのは物理」
  7. リアル理科社会007「82年と70兆円は、なぜ実感できないか」
  8. リアル理科社会008「AIで7本の記事を書いて分かった。『調べる』とは、出典を探すことではなかった」

C. さらに読むなら

  • 中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』岩波新書
  • 宮脇昭『鎮守の森』新潮文庫
  • 鷲谷いづみ・矢原徹一『保全生態学入門――遺伝子から景観まで』文一総合出版
  • 日本生態学会編『生態系管理の考え方と応用』
  • SER『International Principles and Standards for the Practice of Ecological Restoration』第2版(無料公開)

本記事は、筆者がこれから着手する現地調査の事前登録として執筆したものであり、調査結果の報告ではありません。本文中の記述は、上記の公開情報にもとづき筆者が要約・再構成したものです。引用元の文章をそのまま転載することは避け、内容は筆者の言葉で記述しています。

「筆者試算」「筆者の整理」「筆者の分析」「筆者の見立て」と明記した数値・表はすべて筆者独自のものです。とくに以下にご注意ください。(1)本文の面積試算で用いた年間採取量は筆者が仮に置いた値であり、出典を持ちません(第7章2番参照)。(2)ボラ層の「年◯mm相当」という換算は、事象の性質(一度きりの堆積)を隠す例として意図的に示したものです。(3)採掘跡地の初期★評価は、現地を見ていない段階での筆者の予測であり、実測値ではありません。(4)ボラ土に適用される法令(採石法/砂利採取法等)は本稿の時点で未確認です。

第10章で引用した海外事例は、いずれも気候・土壌・植生タイプが本件と大きく異なります(西オーストラリアの地中海性気候のユーカリ林、コスタリカの熱帯林、ニュージャージーの温帯林)。知見をそのまま日本の照葉樹林帯に外挿できるとは考えていません。 引用したのは、(a)表土と播種の寄与の非対称、(b)核形成の費用対効果、(c)オフセットの実効性——という3つの構造的な論点であり、数値そのものの適用可能性は現地での検証を要します。

適用法令については、採石法・砂利採取法・森林法(林地開発許可/伐採届)・自治体条例のいずれが、どの範囲で適用されるかを本稿の時点で特定できていません(第5章1節参照)。本稿の記述は各制度の一般的な枠組みの整理であり、この現場への適用を確認したものではありません。

御池軽石の年代については、出典3が約4,600年前、出典4・5が約4,200年前としており、資料間で幅があります。本稿はいずれか一方を採らず、幅で記述しました。また、事業者の公表資料(出典7)には御池の噴火時期について学術資料と異なる記述が見られますが、本稿では学術資料(出典3〜6)を優先しています。